好み

「…おい、本当に大丈夫かよ」

「あ、…うん、大丈夫」

考えごとをしていたら、アルに顔を上げられてしまった。
咄嗟に答えたがオウム返しになって、琥珀色の瞳に疑念が宿る。

「大丈夫って顔してない。…何かあったのか?」

「ん…ちょっと。色々、あっ…て」

話している途中で、唇が重なった。
完全に不意を突かれたユーベルが、目を見開く。

「お前、強情だから。一人で抱え込もうとするんだろうけどさ…俺は何があっても、お前の味方だから。…覚えといて」

真剣な顔でアルが紡ぐ言葉の力強さに、涙腺がジンと熱くなる。
長年、人前で泣くことのなかったユーベルは、素直に泣くことが出来ずにぎこちなく笑った。
すると、アルにポンと撫でられた頭が、そのまま肩に引き寄せられる。

「みんな、どっかで誰かに甘えてんだよ。そうやって生きるのが普通なんだから、たまには甘えとけって。…その相手が俺なら、嬉しいんだけどな」

最後に照れ笑いをしたアルが、顔が見えないように抱き締めてくれて、ユーベルはゆっくりと目を閉じた。
温かさと、喜びと、愛しさが胸を満たす。
幸せを感じる反面、クリスの言った通りだな…と、一度抱いてしまった罪悪感がじくじくと胸の奥を苛む。

「…ねぇ。猫さんは、私とこうすると、どんな気持ち?」

「んん? んー…」

少し身体を離して、読み取るように表情を見つめるユーベルが、アルの腰に手を回して問い掛ける。
考えるように唸ったアルは、やはり照れ笑いをして答えた。

「色々だよ。好きとか、ドキドキするとか、いい匂いだなとか」

「…ふふ、何それ」

「お前が聞いてきたんだろ…正直に答えたのに」

確かにアルの言う通り、好き、ドキドキする、いい匂い、も感じるものだった。
クリスの感覚にも寄り添えたが、また違った感覚でも寄り添えること、共有する喜びを、アルは意図せずユーベルに教えていた。

「ふふっ…ありがとう、猫さん。元気出てきたよ」

「そうか? よくわかんないやつ…まぁ、元気になったならいいか」

「うん。ありがとう」

顔を上げて、お礼という名目を掲げて、ユーベルは初めて自分からキスをした。
名目なんてただの自分への言い訳で、本当は無性にそうしたくなったからなのだが。
軽く触れるだけのキスだったのに、目の前のアルの顔は大袈裟に赤くなっていく。

「っ……」

「…嫌だった?」

「い、嫌なわけあるか…! ちょっと、驚いただけだ」

「あはは、猫さんでも照れるんだね」

「うっさい」

おちょくったせいで、頭を強引にアルの胸に押し付けられた。
きっと、照れてる顔を見られたくなかったんだろう。
おかしくて笑っていると髪をくしゃくしゃと撫で…るというよりは掻き乱されて、少しの間、二人でじゃれ合っていた。