好み

二人が離れて少し経った頃に、ふと思い出してユーベルが尋ねた。

「ところで猫さん、何か用事があったんじゃない?」

するとアルはへらへらと笑って答えた。

「べつに、昼寝しにきただけ」

「あぁ、そう…」

「お前もするか?」

するわけないと踏んで、なーんてとアルが言い掛けたところで、意外な答えが返ってくる。

「して…みようかな。たまには」

「まじか。今日のユーベルおかしいな」

「ふふ、そういう日もあるんだよ」

話しながら、アルがソファーのクッションを寝心地よく整えていると、袖がツンと控えめに引っ張られた。

「あの…どうせなら、…一緒に寝ませんか?」

人恋しいのか、心細いのか、ユーベルにしては大胆な誘いに、アルは喜びを通り越してむしろ不安を覚えた。
本当に大丈夫か、今日のこいつは…と。
そして何より。

「えっ、なんで敬語使った? いや、かなりぐっときたけど…すげぇぐっときたけど」

「う、うん、お願いしようと思ったら、年上なんだなって思い出して…」

「今更? えっ…今更!?」

へへ、と困ったように笑うユーベルに、アルの方こそ困って頭を掻いた。
今日のユーベルがおかしいのは充分にわかった。
なんだか、彼のペースを刻めていないのだ。
こんな時は寝てリセットするのが一番効くだろうと、彼の頭をポンと撫でる。

「まぁ、俺に比べりゃ子供みたいなもんか…でも今まで通り喋ってくんない? 寂しいだろ、周りそんなんばっかだし」

クッションを片手にベッドまで歩いて行くアルが言うことに、ユーベルは人ごととは思えない既視感があった。
自分も、寂しいがためにクリスには普通に接して欲しいと望んだのだ。
女神の威光で祀り上げられた司教の自分ではなく、等身大の自分を見て欲しかった。
結果、それは叶わなかったが。

「…うん。そうだね、わかった」

ユーベルが答えると、早々にベッドに横になったアルが手招いた。
側まで寄って、躊躇いがちに腰掛けたユーベルの腕をアルが引く。

「ほれ、さっさと寝なさい。寝て起きたら治るだろ、たぶん」

そう言って横をポンポンと叩く。
ユーベルも、自分で言い出した手前、照れてる場合じゃないと腹を括って、空いたスペースに向かい合う形で横になった。
分不相応だと感じていたベッドも、二人で寝るには少し狭い。
落ちないようににじり寄ると、ふわりと毛布が引き上げられて、アルがユーベルの背中を引き寄せた。

「おやすみ。起きたらまた話そうぜ」

「うん…ありがとう猫さん。おやすみなさい」

少しの間、名残惜しそうに二人の視線が絡んで、やがて猫の瞳が瞼に閉ざされた。
静かに聞こえてきた寝息につられて、ユーベルもまた、ゆっくりと目を閉じた。