好み

クリスが本気だと伝わってくるからこそ、ユーベルは困っていた。
ただの執着だと思い込もうとしていた心が揺らいで、彼の抱いているものが恋情だと、ついに認識してしまう。
背中に伝わるクリスの体温が、絡みつく腕が、熱い。
もう気付かないふりでは通せない。

「えっと…、あの…」

絞り出そうとしても何も浮かばない。
傷付けないように、想いを否定しないように拒む言葉なんて、出てこない。
己の不甲斐なさにユーベルが困り果てていると、クリスの方が先に口を開いた。

「優しいね、相変わらず」

「……」

「おかげさまで、僕はこうして生きてる」

「……」

「だから、僕はこうして苦しんでる」

「……っ」

「謝らなくていいから」

クリスの唇が、再び耳元に寄せられた。
青い魔石のイヤリングが揺れて、そのまま続きが囁かれる。

「悪いと思うなら、側に置いて。これから先も、ずっと」

咎められていた手が動いて、胸元を撫でられたユーベルの肩がピクンと揺れた。
押し殺されている中での、ほんの小さな反応に、嗜虐心を煽られたクリスの芯はジンと痺れて、吐き出す息を震わせた。

「ふ…、ねぇ、ユーベル」

ねっとりと纏わりつくような、急に変化した声色にユーベルの背筋がぞくりと冷えた。
これ以上この距離でいるのはまずい、とにかく、空気を変えなくてはと、慌てて口を開く。

「っ…はい! おっ…、おしまい! わかったから! クリス、君が大事に思ってくれるのは嬉しいよ。私もクリスのことは、弟みたいに大事に思ってるから」

「…弟か」

「はいはい、おしまい! 離して!」

強引に声を上げたユーベルがクリスの腕を掴んでも、クリスは一向に離そうとしない。

「もうぅう…!」

引っ張ってもびくともしない腕にユーベルが焦れていると、その後ろ頭にクリスはこつんと額を預けた。

「僕のこと、大事に思ってくれる?」

クリスの質問に、諦めの溜め息をついて、ユーベルが答える。

「…思ってるよ…それは昔から、変わらない」

「そう。じゃあ、いいや。今日は許してあげる」

そう言ってクリスは腕をするりと解いた。
安堵したユーベルが、はぁ、と溜め息をついて距離を置くと、クリスは「ねぇ」と笑いかけた。

「…ユーベル様。肉体強化の魔法、得意じゃありませんでしたか?」

「……あぁ…」

そうだった、と悲痛な面持ちでユーベルは額を押さえた。

「強引に振り払っても良かったんですよ。…やっぱり、抜けてますね」

ふふ、と短く笑うクリスは、いつも通りの良い子の仮面で優しく微笑んだ。