流行り風邪

「う…っ……」

「おい寝るな!」

「大丈夫…、それよりレイスを…」

苔の生えた壁に手をついて凭れるユーベルは、他と同調して魔力を分け与えることが出来る、極めて稀な体質を持っていた。
人並外れた魔力を秘めている代わりに、魔石のイヤリングで制御しなければ己に留めておくことすら出来ない不器用さを兼ね備えていて、有り余る魔力を正しく活用できるアルに出会うまでずっと、大きなコンプレックスでしかなかった。
壁に寄りかかるユーベルに気を揉みながら、アルが塵の舞う正円の中に踏み入る。
少しずつ収まっていく光の中に、レイスが依代として宿っていたらしき、装飾の施された小箱が佇んでいた。
どうやら“やった”らしかった。

「終わったな。…あとはこれを解呪してやるだけだな」

「そう、よかった…」

アルが箱に手を伸ばした瞬間だった。
蓋が突然開き、中から勢いよくガスが噴出する。
最後に遺されたトラップの強烈な臭いで、通路に隠れていたエレノアでさえすぐに身の危険を察知した。

「!? や、やっべ、投げ入れられる水場なんてねーな、逃げるぞ!」

「!? えっ、あっ、ちょちょっと待って…!」

箱が赤く点滅する。
足元が覚束無いユーベルの腕を掴んで、アルが強引に走り出す。

「おい、お前も走れ! さっさと出るぞ!」

「ひうっ!? ひゃいっ! …ほげぶっ!」

迫り来るアルの勢いに萎縮したエレノアがお約束通り顔から転んだ。
引きずられるユーベルが手を差し伸べて、アルが怒鳴る。

「何やってんだ馬鹿! もうお前も運ぶ!」

「ほひぃーっ!? ごごごめんなさいですす!」

「待って猫さん! 間に合わない! エレノア、こっちに来て!」

箱の点滅が早まって、ビィーッと耳障りな音が響き渡る。
ユーベルが自分のイヤリングをエレノアに着けて、叫んだ。

「ごめんエレノア!」

大聖堂を揺るがすほどの爆発が地下で起きたのは、その直後のことだった。