流行り風邪

「んじゃいくぜ。…“厳粛たる庇護の下に”」

アルが掛け声と共に地面に手を付ける。
すると巨大な円の形に、白い光が浮かび上がった。
本能で危険だと察知したレイスが甲高い威嚇音と共に、ボロ布を蜘蛛の足のように広げてアルへ組みつこうと襲い掛かる。

「大人しく…してて!」

一瞬の内に駆け付けたユーベルが、その勢いのままガチン!と顎を真下から蹴り上げた。
衝撃で硬直している隙をついて背後に回り込み、身を捻る回転を利用しながら一撃、二撃、三撃と蹴りを入れると、重量感のあったレイスの巨体はいとも簡単に正円の中に押し込まれた。



「うーわっ、かーっこいー」

「茶化してないで早く!」

「わかってるって。…じゃあな、ゆっくりおやすみ」

そう言って、アルは浄化の結界に魔力を巡らせた。
地面の正円に幾何学模様が力強く輝いて、その上に居る魔の物を焼き尽くそうと白く焦がしていく。

『ゲヤァアアッ!! グガッガガガカッ…!』

「もういっちょ」

再び地面にアルが手をつけると、同じ場所に結界が重なって、威力と眩しさが倍増した。
それと呼応するように、イヤリングの輝きも増していく。
結界に縛り付けられて動くことも出来ないレイスは、悲痛な叫びを上げて悶え苦しんでいるが、その蓄えすぎた魔力のせいで力尽きる気配がまるでなかった。

「ふむ、もう一枚か」

三度、アルが地面に手をつく。
簡単なようにやってみせるが、本来、浄化の結界は、重ねられるようなものではなかった。
妙に器用で、膨大な魔力でも難なく操ることが出来る、アルならではの芸当だ。
しかしこんな離れ業を受けてもなお、レイスの肉体は外側がほろほろと崩れるだけで、正円の上から逃れようと必死にもがいていた。

「逝かねぇぞ!」

「…もう一枚、やって」

「…くっそ、意識飛ばすなよ」

四度目の結界が、ようやっとレイスの霊魂を焼いていく。
日の光そのもののように眩しく、力強く、一枚展開するだけでも非常に消耗するこの魔法を支えているのは、イヤリングで繋がったユーベルの魔力だった。
アルの原動力として引き出されて行く魔力が限界に近付き、強烈な眩暈がユーベルを襲う。