流行り風邪

夜になって、だいぶ身体が楽になったユーベルがさっぱりして浴室から出ると、待ってましたと言わんばかりにアルが正面からぎゅうっと抱きついた。

「お…っと、何もう」

「もー参ったぜ、ずっと誰かしら居るんだもん。はーあったけぇー」

件のレイスを簡単に蹴り飛ばしたとは思えない細身が、アルの腕の中で踏ん張る。
頬を擦り寄せるアルは退魔の時の力強さは頼もしいのに、今にもごろごろと喉を鳴らしそうで、愛らしさが頬を擽った。
まだ熱があるのだから、当たり前だとユーベルは笑う。

「でしょうね」

「ん…、てか、熱下がりきってねーな」

少し身体を離したアルが、首元と額にぺたぺたと触る。

「おいおい、大人しく寝てなきゃ駄目じゃないか!」

わざとらしく勝手なことを言うアルに、ユーベルは思わず噴き出した。

「ふふっ、そう思うなら離してね」

「…もうちょっと」

名残惜しそうに再び引き寄せる手つきが優しい。
甘える代わりに甘やかそうとしてくるのが面白くて、肩に顎を預けるユーベルの笑いが止まらず、ゆさゆさと身体が揺れて、アルは複雑そうに眉を寄せた。

「なんだよもう、うるさいな」

「ごめんごめん。だって、」

面白いから、と言おうとして少しだけ離れた唇が、不意に塞がれた。
話そうとして開いていた口に、舌が、ためらいなく入り込む。

「! …、んん…っ!」

じっくりと味わうように上顎をなぞる舌先が、ユーベルの首の後ろをぞくりと痺れさせる。
伏せられた睫毛に目を細めたアルは、立てた指を髪に這わせてさわさわと撫でまわした。
ぞくぞくと震える背中にも掌を這わせて、腰をくんっと抱き寄せる。
ひくっと跳ねたユーベルは、反応しかけている自分に焦って、顎を引いてキスから逃れた。

「んっ、はぁ…ちょっと」

「やだ」

いつものように躱そうとしたところで、すぐにまた口を塞がれる。
にゅぷ、と舌が擦れ合って、溢れてくる唾液に慌てて喉を鳴らすと、今度はちゅっと吸い付かれる。
身体の芯がジンと熱くなる感覚に身を捩ると、腰にある手にぐぐっと力が篭った。
お互いの物が押し付けられて、主張するのが嫌でも伝わってしまう。

「あぁちょっと! ストップ!」

焦ってキスをしたまま叫んだ、まだ躊躇いの残る声が震える。
このまま、流れていいのだろうか、とユーベルは迷う。
この先を望んでくれているのは、わかってる。
何をすればいいのかも、わからないわけじゃない。
でも、本当に踏み込んでいいのだろうか。
立場、将来性、罪悪感…それと、行為そのものへの恐れ。
色々な葛藤に苛まれる触れ合ったままの唇が、ちゅ、と音を立てて食まれる。

「ん…もうちょっとしようぜ」

甘えるような声色で、アルは腰を波打たせるように揺らした。
こすり付けられる彼自身が硬くなっていて、ユーベルはなんとも言えず困って顔を見た。

「…嫌か?」

「え、う…えっと…」

首を縦に振るにも横に振るにも、どう答えたものか踏ん切りがつかない。
迷って俯きかけた顎が掬われて、上向かせた揺れる瞳に、アルは囁いた。

「なぁユーベル。愛してる」

「──!」

琥珀色の瞳が優しく笑んで、そっと口付ける。
ずるい。
その言葉を、今ここで初めて使うなんて、ずるいったらない。