流行り風邪

跳ねた鼓動と口内を探る舌のせいで、落ち着き掛けていた熱情が再び燻り始める。

「…っ、ずるい…!」

「へへっ…お前から学んだ。大事なことはまっすぐ言わないとって」

照れ笑いをしたアルが、こつんと額を合わせる。
それから、滑らかな手触りのセーター越しに、腹に手が当てられた。

「怖いか?」

掌が少しずつ、撫で降ろされていく。

「い、…いや、平気…っ」

擽ったさともどかしさと期待で、頭の中がまとまらない。
熱くなっていく顔を見られているのが嫌なのに、逃げられない。
服越しでも熱さのわかるアルの手が、ついにズボンに差し掛かって、硬くなりかけているユーベル自身をさすさすと撫でた。

「…んんっ!」

ビクッと背筋が強ばって、反射的に瞼が降りる。
視界が遮断されて、アルの興奮した息遣いが耳を擽って、不安を抑え込もうとするユーベルの手がアルの服へしがみつく。
くすっと笑うような吐息が聞こえた後、唇がふにふにと触れ合って、アルの掌が強めに押し当てられた。
こすこすと摩擦される甘美な刺激が、ユーベルの頭に靄を掛けていく。

「んぅっ…は、…ふっ…」

ふるっと全身で震えたユーベルの鼻から、上擦った声が控えめに零れ落ちる。
アルの頭上の猫耳が、ピクピクと悦びで揺れる。
自慰さえも滅多に行わない淡泊な身体の奥に、抗いようのない快感が呼び起こされて、ユーベルは薄目を開けて物欲しそうにアルを見つめた。

「猫さん…手、熱い…」

「ふふ、怖くはなさそうだな」

甘やかすようなアルの声も心地いい。
ずっとうるさい心臓のせいで、頭がぼーっとしてきて思考が回らない。
アルの指が形をなぞるように自身に這わされて、ぞわぞわとした刺激がもどかしい。
ユーベルが自ら腰を押し付けると、また笑ったアルは、緩く握り込んで掌を上下に擦り付けた。

「ん、ん…っ!」

「もっとする…?」

吐き出す息にも、顎に触れるアルの息にも熱が籠る。
息どころか、頭も熱くて、何故だかふと、柔らかくなったチーズが思い浮かんだ。
自分の頭もチーズになるのかな、と考え始めたこめかみの中を流れる血がドクドクとうるさい。
タイムアップだ。
急に体調を自覚したユーベルに、もう集中力なんてものはなかった。

「う…ごめん…気持ちいいけど、…頭、痛い…」

「あ。やべ、大丈夫か?」

「んー…大丈夫じゃない…」

血流がよくなったせいだろう、頭痛がひどくなってきて眉間を狭めたユーベルは、抱き合っているのをいいことに、脱力してアルに身体を預けた。

「うおっ熱! 大人しく寝てなきゃ駄目じゃねーか!」

「はは…誰のせいで…それに、さっきもそれ言ってたよ…」

力なく笑うユーベルを、アルはベッドへ運ぼうとして抱き上げた。
拒みもせず、文句も言わず、むしろ肩に腕が回されて、アルは性欲と理性を頭の中で闘わせながら、ユーベルの頭を枕にそっと乗せた。
熱い体温への名残惜しさと、体調への憂慮を天秤に掛けて葛藤するアルと、身体の中の熱と外の空気を入れ替えるように深呼吸したユーベルの目が合う。

「…風邪、うつったかもね…」

「ん…どうせうつるなら、最後までしてーな…」

「あはっ…ごめん…」

「うそうそ、早く元気になれよ」

少し無理をして笑ったアルは、頭を撫でて唇にキスを落とした。
そしてそのままの距離で、お互いの視線が絡む。

「…おやすみ」

「ん…、おやすみ」

目を閉じたユーベルの意識は、風邪の怠さですぐに遠のいていった。
アルがチーズになる夢に微睡むユーベルの胸を、トン、トンと叩く指のリズムに合わせて、アルの尻尾はパタン、パタンとしばらくの間うるさく揺れていた。

トーストに乗せよう。

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