違和感

クリスがユーベルを目で追うのは日常だった。
おかげで、何を欲しているのか、何を求めているのかがすぐにわかる。
彼にユーベルの秘書をさせたら、右に出るものは居ないだろう。
もしくは、彼にユーベルの執事をさせたら、ユーベルは椅子から一歩も動けない生活を送るかもしれない。

何回“ユーベル”と出てくるんだ、とお思いだろうが、クリスの頭の中にはこれを遥かに凌駕する“ユーベル”が存在していた。
それなのに、そのユーベルに違和感を覚えたのだ。
アルが彼の髪に触れた時、はっきりとは言えないが、何かが違う気がした。

いや、はっきり言える。
どことなく、いつもと違ったのだ。
だからといって、今のクリスでは、違和感としか言い表せない。
アルが勝手にユーベルに触れたことよりも、子供の頃からちっとも変わらないと思っていたユーベルへの違和感の方が、クリスにとっては深刻だった。
ごちゃごちゃと小難しく考えたクリスは、違和感の正体を探るため、ユーベルのストーキングを始めた。

…いや、ある意味それは、日課でもあるのだが。

「どちらに行かれるんですか?」

大聖堂から街へ出ようとするユーベルが、クリスに呼び止められる。

「うん? あぁ、ちょっと雑貨屋に」

「僕も同行させてください」

「いいけど、暇じゃないんじゃなかった?」

「暇になりました」

「そ、そう」

都合よく暇になるもんだ、と苦笑するユーベルが大聖堂の敷地を出て石畳の通りを歩き始めると、一歩下がってクリスが付いてくる。

「…話しにくいから、隣に来てくれない?」

「いいんですか」

「いいって。君って子供の頃から、変なところで気を使うよね」

それは、クリスの真っ白な容姿も相まって、側に居ると好奇の視線を集めてしまうからなのだが。
元々人の目を平気で受け止められるユーベルには、わからない遠慮だった。
それでも今は、同じ司教の服を着ている分、後ろめたさも薄らいで肩を並べることが出来る。

「…雑貨屋では、何を?」

クリスは遠慮がちに、隣に並んで歩き始めた。
聖堂の中でならまだしも、外でこうして一緒に歩くのは初めてで、周りの視線が気にならないでもない。
…いや、正直気になる。
自分で投げかけた質問に、ユーベルがせっかく答えてくれているのに、内容が耳に入らない。
それよりも、すれ違った女性や、買い物を楽しむお姉さん方が明らかに自分を目で追ってくるのが、居たたまれない。
内に籠りやすい性質を持つクリスは、正直なところ早く聖堂に戻りたい気持ちと、ユーベルの観察を遂行する義務感の間で揺れていた。

「クリス。…ちょっとクリス!」

「えっ…あぁ、はい」

「大丈夫? 顔色悪いよ」

「…大丈夫です、日光に弱いだけです」

「えぇ? 初めて聞いたよそれ。少し休もうか、別に急ぎの用事じゃないし」

日光に弱いのも嘘ではなかったが、休むのは大いに賛成だった。