違和感

雑貨屋へ向かう途中、中央に大きな噴水が座した広場を通る。
そこで木陰になっているベンチを選んで、ひとまず腰を下ろした。
都合よく壁を背にしていて、人の目から多少逃れられたことでほっと気が抜ける。

「すみません、ご迷惑をおかけして」

「ううん、迷惑なんて思ってないよ。…そうだ。考えてみたら、一緒に外を歩くのって初めてだね」

隣に掛けたユーベルが、少し見上げがちに笑いかけてくる。
守ってもらっていた頃は自分が見上げていたのに、こうして見下ろす側になった今も、なんだかんだで守られている気がして情けない。
そんな思いでクリスの口から溜め息が漏れた。

「…不甲斐ないです」

「…? 何?」

「あの頃とは違うんですよ。同じ服を着て、側に居て、背なんかユーベル様よりも伸びてしまって」

話をするクリスを、ユーベルがじっと見つめる。
この人は誰かの話を聞く時、必ずこうして見つめながら言葉を待つ癖があった。
それに瞳の色のせいだろうか、海を思わせるような青色は、何を言っても受け入れてくれそうな、不思議な力を持っていた。

「でも…僕の中身は変わらないままです。目一杯背伸びをして足元が覚束無い、子供と一緒なんです」

ふと気が付くと、なんだか人生相談みたいになってしまっていた。
彼を観察するつもりで付いてきたのに、何をしてるんだと手遊びをしてしまう。

「…ふふ。そうだね、変わってないね」

遊ぶ手に、ユーベルの手が重なって、動きが止められる。
相変わらずこうして簡単に触れてくる彼の心境が、クリスには理解できなかった。
それに、やっぱり彼の手は自分では振り払えない。

「だって、クリスはまだ子供だよ。今はそうやって、自分がどうなりたいか悩む時期なんじゃないかな」

「どうなりたいか…」

そう言われて、はっとした。
そばに居る内に、彼を求める気持ちが大きくなっていること。
それから、彼を失いたくない気持ちも日に日に強くなっていること。
そして重ねられた手が、自分よりも小さく思えること。

「…強くなりたいです」

「うん」

「あなたを、守れるくらいに」

「…うん?」

クリスがユーベルの手をぎゅっと握って、不意に笑った。

「ふふ、わかってますよ。ユーベル様が僕なんかよりもずっと強いってこと。それでも、そうなりたいと思ったんです」

「う、うん、そっか。どうなりたいか、わかったみたいで良かった…うん」

ユーベルが警戒心を抱くのがクリスにはわかった。
取り繕うような言葉がぎこちない。
握っていた手を離すと、早々に引っ込んでいく。
それが少し、悲しかった。

「…ユーベル様も、悩んだりしましたか?」

「私は…んー…」

考える素振りを見せたユーベルは、クリスに笑いかけて立ち上がった。

「あはは、内緒。行こうか、あんまり待たせると悪いから」

「ええっ、ずるいですよ。先輩として、話を聞かせてください」

「先輩って言ったって、三つしか違わないよ。それに、大した参考にはならないって」

歩き始めるユーベルに慌ててついて行く。
珍しい経歴の持ち主でもあるから、色々としつこく聞いてみても結局何も教えてもらえず、雑貨屋への道のりでクリスは悔しさを募らせていった。