古傷

「はい、お疲れさま。手伝ってくれてありがとう」

下拵えの手伝いを終えて食堂の隅で休憩するクリスに、ユーベルが淹れたての珈琲を渡した。
食堂の一番端のテーブルにはポットと飲み物が潤沢に用意されていて、誰でも自由に利用できるようにしてあるのだ。

「あ…すみません。ありがとうございます」

ユーベルから受け取った珈琲は、ミルクで程よくまろやかになっていて飲みやすそうだった。
二人とも紅茶を好むのに珍しいチョイスだ、と飲み物のテーブルを見たクリスの視線に、ユーベルが答える。

「あぁ、紅茶は切れてるみたい。あとで補充しておかなきゃ」

「そうでしたか。…なにも、ユーベル様が用意しなくても良いのでは?」

「ふふん…、自分好みの紅茶を置くチャンスでもあるんだよ」

「な、なるほど」

強かに笑うユーベルの好みの紅茶なら、より飲みたい。
そう考えるクリスの頬が密かに緩む。
その微笑みの意味に感付いたユーベルが、少し引いて話題を変えた。

「そ、そういえば、何か相談があるって言ってなかった?」

「あ、そうでした。あの、チョコレートのことなんですけど…」

「あぁー」

「減らないんです」

「だろうね…」

わかるわかる、とユーベルが頷く。
これは、どう見ても協力を仰げそうにない。
それでも一応、ダメ元で聞いてみる。

「手伝っては頂けないでしょうか?」

「ううーん…」

ユーベルが腕を組んで悩む。
一応悩んでくれる分、結果に期待できずとも嬉しい。

「…ご、ごめん…」

「ですよね、わかってました。」

食い気味に頷いて、はは、とお互いに乾いた笑いを零す。
そして二人して、はぁ、と溜め息をついた。

「…減りましたか?」

「多少ね…子供たちにあげたりしても、微々たるものだよ」

「ですよね。何か、こう、いい手立てはありませんかね。いっぺんに消費できる行事とか、どこかに送るとか」

「どこかにって…あ。」

ユーベルが何か思い当たったような顔をした。