猫の迷い-後編-

「っ…そ、そりゃ、好きだよ。何、お前どういう気持ちなの?」

「んー…」

気を紛らわせるために質問で返したアルに言われて、本の中の女性をまじまじと眺めるユーベルの心は、凪いだ水面のように静かなままだった。

「綺麗だし、いやらしいとは思うけど」

「けど?」

「…それだけ。どうこうしたいとかは別に。猫さんはどういう気持ちで見るの?」

「どうってそりゃ…あー」

普通に、と言いかけて、アルは言葉を飲み込んだ。
なんだか今「普通」と使うのは、酷な気がしたからだ。

「想像するんだよ。柔らかさとか、しなやかそうな腰つきとか、物欲しそうな顔してとか…って何言わせんだ」

「猫さんだって私に根掘り葉掘り聞こうとしたでしょう」

「…そうでした」

罰が悪くなったアルが顔を背けると、ユーベルは本を閉じてアルに返した。
そして何事も無かったかのように、珈琲を傾けてひと息つく。

「そうだ、猫さん」

「はい!?」

ユーベルがふと声を掛けると、ちょうど、本を元の場所に突っ込もうとしていたアルがビクリと跳ねて振り返った。
ソファの隙間から半分覗く表紙がなんともシュールだ。

「いや何しれっと元に戻そうとしてるの!?」

「えーっ、だって手頃で丁度いいんだよここ」

「えーっじゃない、手頃ってなんだよ…いや、もういいや。言っても聞かなそうだし…」

「だろ? なんなら見ていいんだぜ」

「必要ないんだぜ」

ユーベルがアルの口調を真似て、なんだそれ、と笑い合ったところで、アルが余計な一言を口走った。

「男のやつなら見るか?」

「ゴッフ」

タイミング悪く珈琲を飲もうとしていて、本日二度目の誤飲事故が起きた。
盛大に咳き込むユーベルに慌てて水を渡して、落ち着くまで背中をさする。
非常に既視感のある光景が繰り広げられた後、ユーベルが恨みがましそうな眼でアルを睨んだ。

「ゴホッ…一日に二度も死にかけるなんて、思わなかった…」

「わ、悪い…そんなに驚くとは…」

反省を知らないアルが、凝りもせずに目を輝かせる。

「で、見る?」

「はぁ…何、そもそもあるの? そういうの」

いちいち拒むのも面倒になってきたユーベルが会話の一環としてそう返すと、ソファーの隙間に手を突っ込んだアルが一冊の本を引きずり出して見せた。