貴婦人の集い

ドン!と壁に手が突かれた。
その横に目を見開く顔があって、腕の持ち主と壁の間に閉じ込められる。

「…どう? マリー」

壁に張り付いたマリーは、ほんのり頬を染めて噴き出した。

「っふふ! あはは、だめ! 驚きはしたけど、やっぱドキドキはしないわ!」

「まぁそうよね。あなたと私じゃ、このくらいの距離感どうってことないしね。構図の参考になりはしても、心理描写には生かせないか…」

壁から手を離したフランが考え込むように腕を組む。

「あはっ、じゃあ逆はどう?」

「ん…?」

ドン、と今度はマリーがフランの顔の横に手を突いた。
それからマリーが顔を近付ける。

「素直になれよフラン…」

「……ぶふっ」

マリーの作った声色に、フランが噴き出した。

「あっはは! だめだめ! 笑いは生まれても生きる糧は生まれて来ない! あーおもしろっ」

腹を抱えるフランが目線を落とすと、少し離れたところでドン引きしているステラが居た。

「あ。ステラ」

マリーも気付いて振り返る。

「あ! おかえりステラ!」

「はは…」

やっぱりこの二人に関わるのはやめようかな、と思った瞬間だった。

場所を変えて、私達はマリーの寝室に来ていた。
日中だから同室の司祭はおらず、持ち寄った飲み物やお菓子を床に敷いたシーツに広げる。

「それじゃあ、ステラの仲間入りに…」

「かんぱーい!」

「か、かんぱーい!」

コップにそれぞれ好きな物を注いで、カチンと合わせた。
二人は昼間なのにお酒を選んでいるようで、甘いけどむせるような香りがした。

「よーし、じゃあステラ。それぞれ細かく報告よろしく!」

「は、はい…えと順番に、ユーベル様から…」

私は自分が持っている全語彙力を駆使して、三人分のお祈りの様子を二人に精一杯伝えた。
時折どちらかが興奮して中断しかける度に、もう片方が鎮めたりして、時間は掛かったけどなんとか乗り越えた。
無事に伝えきったところで、一息つこうとコップのジュースを一気に飲む。

「ふぅ…これでおしまいです。どうでしたか?」

二人を見ると、熱心に書き記していくフランを置いて、マリーが私の頭を撫でた。

「よくやった! えらいえらいよー、ステラいい子いい子!」

ほろ酔いで上機嫌のマリーがへらへらと笑う。
こんなことでも、褒められると嬉しくて、私もつられてえへへと笑った。

「…でもね」

急に、マリーの声が真剣なトーンになる。

「ステラの素質が試されるのは、ここからなの」

「…え?」

このあと、私は禁断の領域に足を踏み入れた。
ただ三人の誰が好みか、とか、そういう話だと思っていたのに、私が引きずり込まれたのはもっと闇深く耽美で…魅惑的な世界だった。