聖職者と猫

違和感

今日は天気がいい。
寒さが厳しい季節の、束の間のぽかぽか陽気に、大聖堂の庭でも子供たちの笑い声が響いていた。
その中に紛れてままごとの相手をする青い頭に、呆れ混じりの声色でクリスが近付く。

「楽しそうですね、ユーベル様」

「あはは。…あ、クリス。君も一緒にやる?」

「やりません…」

「クリスさまあそぼー!」

「クリスさまは、よーせいのやくね!」

「こ、こら…!」

こういう時、女の子は強い。
強引に振り払うなんてとても出来ず、一瞬にして巻き込まれたクリスが腕を引かれて子供の輪に飲み込まれる。

「ふふ、いらっしゃい」

「暇じゃないんですが」

相変わらずの穏やかな笑みを恨みがましくクリスが見ると、ユーベルの青い髪に可愛らしい白い花がいくつも付けられているのに気が付いた。
そしてそれは、女の子の手によって一つまた一つと増えていく。

「…あの、ユーベル様は何の役なんですか?」

「…女神様」

「!?」

「年始の儀のせいかもね」

年の初めに行う式典で、女神と同調して声を貸す役割を担うのがユーベルの一番の大仕事である。
拝む側からすると全身が淡く発光する程度の変化が見られるらしいが、深いフードで顔を覆い、背格好もわからないほど沢山の装飾が施された豪奢なローブを纏っているのに、幼子や目の力が強い者にはユーベルと女神の姿が視認出来るのだそうで。

「子供って、時に力強いよね…」

子供たちが居る前で、珍しくユーベルが遠い目をする。

「大変ですね…」

「君も、人のこと言ってる場合じゃないよ」

ユーベルがそう告げると、今度はクリスに葉っぱと花がいっぺんに撒き散らされた。
どうやら、妖精は花を纏っているイメージがあるようで、彼女達はクリスに衣装をくれたというわけだ。

「クリスさま、にあうー」

「あ、あぁ、ええと…」

子供慣れしていないクリスに、ユーベルがひそひそと助け舟を出す。

「ありがとうって、笑うの」

「あ、ありがとう」

クリスの顔が引き攣る。
それでも女の子たちは楽しそうに笑っていて、ほっとした。
…のも、束の間だった。

「これどーぞ」

「はい、ありがとうございます」

差し出された泥水のコップをスープに見立てて飲むフリをしたクリスを、女の子はぷんすこと腰に手を当てて怒った。

「クリスさま、ちゃんとのんで!」

「飲んでますよ、美味しいです」

「のんでないよ! へってない!」

無理難題を言う子供に困ったクリスは、目でユーベルに助けを求めた。

「あーっと…。私もお腹がすいたな、スープくださいな」

「! はい、めがみさま、どーぞ」

ユーベルは女神様呼びなのか…とクリスが冷静な頭で観察していると、ごくごくと擬音付きで傾けられた泥水がみるみる内に減って行った。
驚いて目を見張っている間にも、ユーベルが演技を続ける。