進展

二人が離れる頃には、紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
くっついてる間、茶葉の好みだとか、明日の雪の様子だとか、他愛のない話をしていて、その延長でユーベルは、あ、と声を上げた。

「そうだ。そういえば、飼ってってどういうこと?」

冷めて、より甘ったるい紅茶を口元に傾けながらアルに問い掛けると、彼は照れ臭そうに頭を掻いた。

「あー、その、要は、住まわしてくんねーかなって…この部屋に」

「別にいいよ」

「…!? あっさりしてるな」

なんだそういうことか、とユーベルは笑った。
元より一人で居るには広いと感じて勿体なく思っていたから、ちょうどいいと。

「ところでずっと不思議だったんだけど、猫さんの部屋は?」

司教なら配属された時に部屋が割り当てられているはずだ、自分とクリスのように。
湧いて当然の疑問をアルへぶつけると、信じられない答えが返ってきた。

「だいぶ前に物置になった。あんまりサボるからって神父に取られて」

「え…えぇ!? それなら、真面目にやれば返して貰えるんじゃない?」

「えー、俺が真面目にお祈りのキスなんてすると思うか?」

「するしないじゃなくて、しないといけないの。それも司教の仕事だって分かってるでしょう」

「俺は実戦派だからいいんだよ」

「そんなこと言って…だから部屋まで取り上げられるんだよ」

「いーいーの、俺の荷物なんてないし。いまさら返されて片付けさせられんのも面倒だし」

何を言っても無駄だな…とユーベルは悟った。
こんな働きぶりでも追放されないのは、彼の言う通り、退魔を必要とする実戦に出ると頭一つ抜きん出た成果を上げるからだ。
ユーベルは、それはよく知っていた。
広範囲を一掃するのが得意なアルの背中と、自信に満ちた笑みは脳裏に焼き付いていて、振り返った瞬間にへらりと頬を緩ませる安堵の表情を、密かに胸にしまって大切にしていた。

「…神父様には、気付かれないようにしてね。一緒に居るってわかったら私がくどくど言われるから」

「わかってるよ」

「あ。あとクリスにもね。あの子、やきもち妬くと大変だから」

「…わかった」

「ていうか」

「わーかってるって、誰にも気付かれなきゃいいんだろ? 寝場所だけ貸してくれればいいから」

「あはは…日中は来客があったりもするから、気を付けてね」

「はいはい」

なかなか飲み進まないユーベルの紅茶を奪って、アルは一気に飲み干した。
それから二人で寝支度をして、おやすみ、とアルがソファーで丸くなるのを見届けてから、ユーベルは自分のベッドに潜り込んだ。
人の気配があることでなかなか寝付けなかったが、それもその日だけで、すぐに二人で過ごす夜が当たり前になるのだった。