進展

「はー、生き返ったー」

ほっかほかになったアルが上機嫌で部屋に戻ると、ちょうど、廊下側のドアが開くところだった。
後ろ手にドアを閉めるユーベルのもう片方の手には使い込まれた銀のトレイがあって、アルに気がつくとぱっと表情が明るくなった。

「あ。もう大丈夫?」

「ああ! 屋根と壁があるって素晴らしいな!」

「ふふっ、何それ」

頬を艶やかに上気させたご機嫌な様子のアルを見て、笑ったユーベルがテーブルにトレイを置く。
器に盛られたトマトベースのシチューから、よく煮込まれたニンジンや鶏肉が顔を出していて、ふわりと立ち上る湯気がアルの鼻をくすぐった。

「め、飯…」

「夕飯のとき、食堂に居なかったからお腹すいてるかと思って」

「あーっ! すいてる! いただきます!」

椅子に飛びついたアルが慌ただしくシチューに食らいつく。
誰も取ったりはしないのに、せわしないなぁと心の中で呟きながら、ユーベルは向かいに座ってアルの様子を観察していた。

「なんか、猫さんって」

「うん?」

食事を続けるアルを、頬杖をついたユーベルが笑う。

「野良猫みたい」

「ぶっふ!」

「うわ! ちょっ…汚いな!」

「げほげほっ! …揃いも揃って人のことなんだと思ってんだ…!」

「どういうこと?」

アルが噴き出した食べかすを拭きながらユーベルは怪訝な目を向けた。
むせ返って涙目になっているアルが、喉に水を流し込んで睨み返す。

「今朝クリスにも同じこと言われたぞ。なんか示し合わせてんの?」

「えぇえっ!? し、知らないよそんなこと!」

「俺のこと影でそう呼んでるとか」

「呼んでないって!」

わざとらしくいじけるアルがシチューのニンジンをスプーンでつつき回す。
今朝のクリスとのやり取りが頭に浮かんで、なんとなく、後先考えずに呟いた。

「首輪があれば外で寝なくて済むんだけどな」

「…はい? どういう意味、それ」

発言の意図がわからず、ユーベルが首を傾げる。
するとアルは残りのシチューを一気に掻き込んで、ごちそーさまと手を合わせた。

「別に、なんでもない。もし俺が凍死したらクリスのせいだと思って」

「…そんなもし、起こったら困るよ」

食器を水場に下げるついでに、ユーベルはアルの頭をコツンと小突いていった。