進展

いつもと同じように一日が終わって、ユーベルが湯船でゆったり寛いでいると、窓が揺れる音がやけに耳についた。
外が吹雪いていたせいで、風が強いなと気に止めていなかったが、どうもガタガタと鳴り止まない。

「…まさか」

そう、まさか、と思って、湯船を飛び出し髪を拭くのもそこそこに急いで部屋に戻ると、案の定、窓の外で縮こまる影があった。
そのまさかだった。

「うわぁ、もう! そうなるでしょうよ!」

「ここんばんははは死ぬぅ…」

悪態をつきながら窓を開けると、半分凍りかけているアルが真っ青な顔でぎこちなく笑いかけてきた。
今度はユーベルが、笑いごとじゃない!と怒る番だった。

「とにかく温まって。ほら、こっち来て座って」

暖炉の前に椅子を動かして誘導しても、アルは窓枠にはまったまま動かなかった。
いや、動かないのではなく、動けなかった。

「う、ご、か、な」

「もー、馬鹿だな。なんでわかっててそうなるの? …冷たっ!」

呆れつつも仕方なくアルに腕を回して抱え降ろすと、氷を抱いているんじゃないかと錯覚する程に冷えきっていて、ユーベルはぶるっと背中を震わせた。

「た、たすがりまず」

「つ、冷たすぎ。本当に大丈夫?」

「わ、わかんね…」

窓から降ろされてもアルは一向に動こうとしない。
これはちょっと大ごとだなと察したユーベルは窓を閉めるなり、肩を抱え上げて浴室に連れ込んだ。

タイルの床に座らせたアルに、充分にぬるめたお湯が着衣の上からかけられる。
ゆっくりじわじわと染み込んでいく温度は、決して鋭いものではないのに、冷え切っているアルの身体は異常に感じる熱さを嫌がって、逃げ出そうと悶えた。

「あっち! ああ熱っ熱っ!」

「全然熱くないから。いきなりお湯に放り込まれたい?」

背中を支えるユーベルの膝が、逃すまいとしてぐりっとめり込む。

「ずみまぜん!」

しばらく続けていると、固まって動かなかったアルが震え始めて、顔色が人間味を取り戻してきた。
体温を測るように頬をぺたりと触ったユーベルは、少し安心した顔をしてから身体を離した。

「そろそろ動けそう? 中に入れる?」

「な、なんとか、たぶん」

機械で出来ているのかと思わせるくらい、ゆっくりとした動作で腰を上げたアルは、これまたゆっくりとコマ送りで靴を脱いで、湯船に足先をちょんとつけて、ほっと息を吐いた。

「大丈夫そう、…さんきゅ」

「なら良かった…温まったら、そのままお風呂に入ってから出ておいで。タオルと着替えは置いておくから」

わかった、とアルが服を着たまま時間をかけてお湯に浸かるのを見届けたユーベルは、浴室の外へ出てひとつくしゃみをした。
うっかり濡れたままだった自分の髪と、アルを抱いて濡れてしまった部屋着に苦笑して、二人分の着替えを取りにクローゼットへ向かった。