古傷

「それがリアリティがあれば信じます。」

「何それ…えぇ…」

ユーベルの目が泳ぐ。
逃げられないのを知らしめるように改めて腰を掴むと、焦ったような声で話を始めた。

「うぇえっと! …は、入って来るなりいきなりキスが始まったから、出るに出られなくなって」

「はい」

照れか緊張か、ユーベルの声が少し震える。

「女性の方が悪戯っぽくねだって、…神父様は拒めない感じで」

「はい」

神父のところで言い淀んで、そのあと、少しずつ声のトーンが落ちていく。

「何度かキスしたあとに、布が擦れる音、が」

そこまで言ったユーベルが、口元に手を当てた。
青ざめた顔が顰められて、クリスの頭に疑問符が浮かぶ。

「…ちょっと待って、君いまいくつ?」

「十六ですね」

「あっぶな! 未成年に何聞かせてるんだ私!」

自分に言い聞かせているのか、不自然に元気な声だった。
また何か、知らない一面が見え隠れしている気がして、揺さぶりをかけてみよう、とクリスは忌避されている言葉を選んで瞳を覗き込んだ。

「ユーベル様、もしかして性行為が苦手ですか?」

「っ…」

意外にも、図星の反応だった。
でもそれは一瞬だけで、すぐに取り繕われる。

「そうじゃない。ああいう現場に遭遇するのって、思ったよりショックが大きいみたい。もういいかな…」

「そうですね、ユーベル様も未成年ですもんね」

「…そういえばそうだ」

こんど神父に埋め合わせをしてもらおう、そう思って気が緩んだユーベルの視界が、突然入れ替わった。
くらりとした頭で見上げると、クリスの空色の目が見下ろしてくる。

「未成年同士なら、何も悪いことはないんじゃないですか?」

「え…何その理屈!?」

ユーベルが拒む前に、クリスは首元に口を寄せた。
襟を避けて肌に唇を触れさせると、すぐに肩が竦められて押し返される。

「何してんの…!」

「子供の戯れです」

腕を押さえ付けたクリスが唇を重ねようとすると、大袈裟に顔を背けられた。
代わりに、チャリ、と目の前に差し出されたイヤリングに口付ける。

「ちょっと、やめなさい。さっきの今でこういうのは…」

「思い出しますか?」

「…うん。…っ、だめだ、気分が…」

凛とした声で制したにも関わらず、組み敷いている腕に力が入ることはなく、具合の悪そうな素振りは演技ではないようだった。