猫の迷い-後編-

翌朝。
いつもより早く目覚めたユーベルが身支度を終えて紅茶を淹れていると、香りと物音に釣られたアルがのそのそと起き出した。
目を閉じたままソファーからふらふらと浴室へ向かって、またふらふらと戻ってくる。

「はよー」

「はい、おはよう」

殆ど目が開いていないのに、それなりに支度が整っているからすごい。
相変わらず、襟元は全開だが。
感心するユーベルが水場に立ったまま紅茶を傾けていると、アルが横からのしっと寄り掛かってきた。

「ちょ、お、重い」

「ねむい」

「もう少し寝たらいいのに。いつもより早いよ、今日」

「あー、どうりで」

言葉を交わしながら、腰にアルの腕が絡みつく。
やたら密着されると、昨夜のことがチラついてしょうがない。
鮮明に蘇るアルの吐息。
今までに感じたことのない強い快感と、つきまとう喪失感。
おまけに、みっともない姿を見せた羞恥心までつきまとう。
頭に頬を擦り寄せられるユーベルが気まずそうに避けようとすると、今度は唇が触れ合う寸前の距離まで顔を寄せられて、アルの動きが止まった。

「…あ、本物か」

「…は、はぁ?」

目が合ったと思った矢先に、アルがへらへらと笑い始める。

「寝ぼけてた」

「…どうりで」

滑稽ともいえるアルの行動に、じわじわとこみ上げるものを感じたユーベルが脱力して笑う。

「ふふ…飲む? それとも、目覚ましに珈琲いれようか」

「いや、これでいい。サンキュー」

飲みかけの紅茶をアルが口に運んでいる間に、ユーベルは腕をすり抜けて離れて行った。
すると、紅茶を置いたアルが後を追って、今度は後ろから抱きついた。

「えー…もう何、構ってほしいの?」

「時間あるだろ?」

「少しね…」

ユーベルの答えを勝手に合意と捉えたアルが首筋にキスを落とす。
さりげなく押し付けられた股間に存在感を感じとったユーベルが、はっとして反射的に振り返る。

「おおおいっ!? 朝から元気ですね!」

「…お前もな」

色気も何もない突っ込みの直後に、アルは呆れ顔で唇を重ねた。
遠慮なくこじ開ける舌からふわりと甘い香りがして、ユーベルの脳にぼんやりと霧が掛かる。
紅茶を乗せた舌に口内をまさぐられて、ぞくぞくと熱が燻っていく。

「ん…っ、ふ…」

ユーベルが零した吐息にアルの耳がピクピクと揺れる。
頭を押さえつけて、何度も噛み合わせを変えてしつこく味わっていると肩が叩かれた。
それでも無視を決め込んでキスを続けるアルの視界が、ちゅぱ、と口が離れる音の直後に、ぐんっと大きく傾いた。
咄嗟に反応できず、足を払われてどすんと尻餅をついたアルが、騒がしく文句を垂れる。

「おうっ!? 痛い酷い! 恋人なのに容赦ない!」

「はぁ…、長い! 今から人前に出る身にもなってよ!」

「なんだ興奮したのか、はっはっは」

「っ…」

笑うアルに図星を突かれて、いつもならさらりと躱すユーベルが口篭る。

「あれ……ご、ごめん?」

「……うるさい!」

なんとも幼稚な捨て台詞を残して、ユーベルは肩を怒らせて部屋を出て行った。
床に座り込んだままのアルが、腕を組んでしばらく考え込む。

「…まぁ昨日の今日だしな」

そういえば今日の朝食の席で、号令をかけるのはユーベルの役目だったことをアルは思い出した。
様子見と好奇心を兼ねて、少し早めに食堂へ向かうアルの尻尾は、前にも増して楽しそうに揺れていた。

ただ快楽を追うだけじゃない。
愛しさを伝え合う、大切な行為。

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