猫の迷い-後編-

「お前に鼻で笑われんの、結構ぐっとくる」

「…は、ははっ…」

「本気でドン引きすんなって! 仮にも恋人に対してひどい!」

「ひどいのは猫さんの頭の方だと思うよ」

あまりにも平然としているユーベルに、アルは徐々に腹を立てて離れて行った。
やっと軽くなった肩をトントンと叩いてほっとしているユーベルの視界が、不意にぐんっと揺れる。

「んぐっ…!?」

咄嗟のことで、驚きの声ごと飲み込まれていく。
いつの間にやら顎を捕まれて、口に柔らかいものが触れていた。
目の前に真剣な猫の目があって、魅入られたように身体が動かない。
重なった唇の角度が変えられて、アルの吐息が隙間から漏れる。
ちゅく、と侵入してきた舌が、味わうように舌の上を這って、ぬるぬると擦れて、ぞくりとした快感を呼び起こす。
甘く痺れていく感覚が背すじを降りて、縋るようにアルの背中を掴んだところで、ゆっくりと唇が解放された。

「ふふっ…やっとしたな、やらしい顔」

「はぁ、っ…こ、これは、反則…んむっ!」

悪戯っぽく上目遣いで覗き込んだアルが再び口付ける。
こじ開けて、ちゅぅ、と緩く吸い付いて、息苦しさなどまるで構わず絡む舌が、ちゅくちゅくとしつこくて。
ここまで遠慮なく貪られたのは初めてで、降参したユーベルがトントンと背中を叩いたところで、ちゅ、と音を立てて隙間が出来た。

「んんっ、はぁ…もう、気が済んだでしょ…」

「ん…足りるかよ。このまましようぜ」

至近距離のままで囁くアルの潤んだ目と、首筋を捕まえられていて逃げられないユーベルの目が真っ直ぐに見つめ合う。
じっとにらめっこ状態が続いて、先に耐え切れなくなって目を逸らしたのは、ユーベルの方だった。

「…お風呂入ってからでいいですか」

「…女子かよ!」

この期に及んで躊躇うユーベルに、アルがゴツンと頭突きを食らわせる。

「いったい!」

「焦らされる俺の苦痛がわかったか」

「全然別物な気がするんだけど!」

じんじんと痛む額を押さえようとユーベルが身じろぐと、アルの拘束も解けた。
それから、ま、いーやとアルが笑う。

「入って来いよ。今から俺とするんだって想像しながら」

「しっ…しない! 余計なこと言わないでくれるかな」

「なんなら一緒に入っても」

「行ってきます」

からかうアルに耐えかねて、ユーベルはさっさと浴室に向かった。
さてどんな顔で帰ってくるだろうと楽しみにしながら、アルはいそいそとベッドと枕を整えた。