違和感

帰り道を歩きながらクリスがじろじろと耳元を見ていると、気が付いたユーベルが困ったように笑って耳の辺りを手で隠した。

「ちょ、ちょっと、見すぎ。気になるのはわかるけど」

「はい、気になります。そういえば、いつも着けてらっしゃいますね」

「あれ? さっき言わなかったっけ?」

「何をですか?」

先程、クリスの質問にユーベルが答えていた時、クリスは心ここに在らずだったのだ。
おかげでイヤリングのことなど聞きそびれていた。

「聞いてなかったんだ」

「…すみません」

「じゃあもう教えてあげない」

意地悪を言うユーベルが楽しそうに笑う。
楽しそうなのは嬉しいのだが、イヤリングのことが気になって仕方がないクリスは、こういう時のユーベルの扱いをよく知っていた。

「ユーベル様は時々、子供じみたことをしますね」

「ははっ、嫌味?」

「そうです。…もういいです」

挑発したあとで、これ見よがしに拗ねてみせる。
そうすると、大体の場合ユーベルは構ってくれるのだ。
そして今回も、この思惑は上手くいったようだった。

「はいはい、拗ねない。大したことじゃないよ、身に着けてないと困るってだけ」

こうして答えてくれたユーベルが、クリスの背中をポンと叩く。
昔はこの仕草も、頭にしてもらえていたのに、伸びてしまった身長が少し悔やまれる。

「困るというのは?」

「んん…説明するの面倒くさいなぁ…」

あまり面倒臭がったりしないユーベルが、ぼやいて腕を組む。
それから困り笑顔を作ってクリスを見た。

「…また今度じゃだめ?」

「…今、知りたいです」

ユーベルの心の声が聞こえた気がした。
ジーザス、と。
そんな彼に誘導されて通り道にある広場に立ち寄ると、人気の少ない場所を選んで二人で向かい合った。

「クリス。魔法って使えるよね?」

「はい。基礎的なものなら一通り」

「うん。たとえば、この街路樹にヒールを掛けてみて」

「? はい」

言われた通りに、街路樹に向けて回復魔法であるヒールを放つ。
すると街路樹がふわりと薄緑色に発光して、すぐに元に戻った。
それはそうだ、本来この魔法は、人体の治癒力を瞬間的に高める魔法なのだ。

「これが何か?」

「クリスはそうやって、離れたところから魔法が使えるでしょう?」

そう言って、今度はユーベルが街路樹に手を翳す。
そして、何も起こらなかった。