猫の決意

彼の言葉を改めて頭の中で反芻すると、体の芯がじりっと焼け付く感じを覚えた。
“スキ”のたった二文字が、苦しくて堪らない。
鼓動が高まってうるさい。
もう風の音なんか耳に入らない。
覚悟を決めて目を開けると、不安そうなままで彼は待っていた。

「本気で言ってる?」

彼に向かって手を伸ばす。

「当たり前だろ! こんなタチの悪い冗談なんか言うか! 俺は本、気でっ…」

彼の胸に、鼓動を打つ場所に、掌を這わせた。
続きの言葉は引っ込んでしまったようだ、ギクリと身体を強張らせた彼の頬に朱が走る。

「…私、男だよ」

鼓動が伝わってくる。

「わかってるよ、そんなこと。俺だってそうだ」

力強くて、自分と同じくらいに早い。

「公にはできないよ」

緊張のせいか、瞳も潤んで見える。

「わかってる」

彼は紛れもなく本気だ。
手を離すと、どこか名残惜しそうに見つめられた。
口を開こうとしたところで、不意をつかれる。
彼の手が、自分がしたのと同じように、胸にすっと添えられた。
掌の熱が、温もりが直に伝わってきて、全身の血流が一気に加速する。

「お…」

「──!」

意外そうに目を見開いた彼から咄嗟に顔を伏せた。
人にやっておきながら、自分がされると堪ったものじゃなかった。
動揺ひとつ逃さずに伝わる感覚は、自分の手にもまだ残っていて、意識してしまって尚更心音が早くなる。

「…なんで、こんなに早いのか、聞きたい」

囁く声が甘やかに耳を擽る。
きっと顔は真っ赤だ、なのに彼は遠慮なく覗き込んでくる。

「なんでって…」

「なんで?」

潤んだ琥珀色の瞳が迫る。顔が寄せられる。鼻先が触れ合う。

「わっ…かるでしょ!」

耐えられなかった。恥ずかしさで憤死するかと思った。
両肩を掴んで引き剥がしたのに、一緒に離れて欲しかった彼の掌は胸に押し付けられたままで。

「言葉で聞きたい、イエスでもノーでも、はっきり」

「っ…、わかったから離れて…!」

どうにかこうにか頼み込むと、やっと手を離してくれた。
どこか楽しげな笑い声が耳に届いて、妙な悔しさを溜め息とともに外に逃がす。

「…猫さん」

「ん」

呼び慣れた愛称が震えて、本当に吐露していいものか、ここにきて迷いが生じる。
彼が胸の内を明かした時点で、今までの関係を続けることは不可能だ。
今更隠したって無意味だ。
そう、だから、素直になるべきだ。

「…一緒に居て心地いいのは、私も同じ。出来ればもっと、側に居られたらなと思う。つまり…その、す…好き…なんだ、と思う…君のことが…」

言ってしまった。
正当化を重ねて、我ながら情けないほど歯切れは悪かったが、もう後には退けない。